鉄鋼業界は、自動車、船舶、家電、建築、商社など、さまざまな業界と密接に結びついています。
日本の鉄鋼業界は世界トップクラスの技術力を誇り、国内でも重要な産業として私たちの社会生活にも多大な影響力を持っています。
本記事では、鉄鋼業界の動向や仕組みについて紹介するだけでなく「どういうビジネスモデルでどんな仕事をしている?」「どういうスキル・知識が求められる?」という人に向けて、業界の動向やキャリア、志望動機、自己PRの書き方についてわかりやすく解説していきます。
また鉄鋼業界の売上や利益、年収、従業員数、勤続年数をランキングで紹介しています。ビジネス規模や働きやすさ等がわかるので、ぜひあわせて確認してみてください。
鉄鋼業界の仕組み
鉄鋼は、車や鉄道そして包丁、スプーンなど、私たちが生活していて当たり前のように使用してるものに使われています。
鉄鋼業界は”加工した鉄製品”を自動車や家電などの業界に提供し、収益を得ており、主に”鉄鋼メーカー”と”その製品を仕入れてさまざまな業界に販売を行う金属卸事業”を行っている事業者を指します。
鉄鋼業界のメーカーの種類
鉄鋼メーカーは、高炉メーカー・電炉メーカー(特殊鋼メーカー)と分けられています。
高炉メーカー
高炉メーカーは、高炉で鉄鉱石と石炭から鋼鉄を生産するメーカーです。世界的に見ても、この手法による鉄鋼生産が主流となっています。
日本においても生産量のシェアは高炉メーカーが約4分の3を占めています。また高炉メーカーは原料から製鉄し、鉄鋼製品になる製造までを1つの工場内で行うため、非常に大きな装置や設備が必要です。
一方で「高炉」では取り除ける不純物を「電炉」では取り除けず、 鋼材の耐久性の観点では高炉メーカーに比べて劣るというデメリットがあります。
特殊鋼メーカー
機能をもった鉄鋼を作ります。電炉メーカー同様「電炉」で「特殊鋼」を製造しますが、分類上「電気炉メーカー」とは別で扱われます。
特殊鋼メーカーの鋼材は自動車部品や工具などに使われ、 合金の微妙な比率の違いで性能に大きく差が出るため、高い技術力を要する日本のメーカーの需要は高いです。
鉄鋼業界の職種
鉄鋼業界にもさまざまな職種があり、他の業界同様、人事・総務・経理財務などもありますが、ここでは鉄鋼業界ならではの4つの職種について紹介します。
❏研究開発
研究開発は新しい加工の方法や銑鉄や鋳造などの技術を研究して、市場のニーズにあった製品の開発につなげる役割を担います。
鉄鋼では硬さだけでなく弾力や粘りなど製品の特性を決めるさまざまな要素があり、用途に合わせた鉄鋼をいかに効率よく、また高い品質で作れるかが企業の競争力にも関係する大きな問題です。
研究開発は鉄鋼だけにとどまらず、鉄鋼を作るための工場や設備などの分野についても行われています。
❏生産(生産管理・品質管理)
生産管理では製品を納期までに間に合わせるためのスケジュール作成から進行管理など生産工程の効率化を行っています。またそれだけでなく在庫の管理や資材の発注、納期対応を行うのも生産管理の役割です。
品質管理では工場で生産された製品の品質を高く保ちつつ、不良品ができないように管理します。定期的に品質をチェックをすることはもちろん、問題発生時には原因を追求し再発防止のための計画を立て、技術的にまた組織的に改善を進めていきます。
生産の仕事は、安全且つスムーズに工場を運営していく上で欠かせない仕事と言えるでしょう。
❏営業(国内営業、海外営業)
営業は国内外にわたって市場ニーズをキャッチし、新しいビジネスを開拓する仕事です。
各業界のメーカーや建設会社、商社、官公庁などをお客様とし、それぞれに対ししっかりとニーズをヒアリングした上で自社製品の営業、提案を行います。
つまり顧客の真のニーズを知り、適切な提案をするためコミュニケーション能力が問われます。
また企業によりますが、海外取引の多い企業であれば海外営業の仕事を任されることもあるため、製品に関する知識だけでなく高い英語力も必要です。
❏調達
調達の仕事は、国内外から鉄鋼製品の原料となる鉄くずや鉄鉱石などを買い付けることです。その他、輸送船舶の手配や輸送の進捗管理など、製鉄所に原料が届くまで一貫して責任を負います。
高炉メーカーの場合、船舶の手配といった輸送管理や良質な原料を安定的に製造ラインに供給するための投資プロジェクトに参加することもあるでしょう。
また電炉メーカーの場合は、くず鉄の購入をおこない、高品質な製品を安価で届ける役割を担っています。
鉄鋼業界の動向5選
ここでは鉄鋼業界の動向を下記にて5点紹介します。それぞれ以下のトピックスについて紹介しているので、確認しておきましょう。
・海外メーカーに押され価格競争が激化
大手企業同士の合併で事業の効率化
・電炉メーカーの再編が急務
・温暖化をはじめとした環境問題
・国内の鉄鋼製造のための原材料が不足
鉄鋼業界の市場規模
鉄鋼業界の市場規模は2019年-2020年で国内総出荷額16兆3,221億円です。市場規模は巨大であり、国内でもかなり規模の大きい業界となっています。
業界規模は景気の影響などを受けて大きく拡大縮小を繰り返しており、現在は横ばい、あるいは若干の縮小傾向です。
▶参照元:業界動向サーチ/業界ごとの合計、または平均を項目ごとにランキング(対象企業計45社)2020-21年の業界レポート。(※2022年6月作成時点)海外メーカーに押され価格競争が激化
国内の鉄鋼メーカーの技術力は、世界的に見ても高いと評価されていました。しかし鉄鋼の原料である鉄鉱石や石炭を豊富に産出する資源国(中国・インドなど)の鉄鋼メーカーが台頭してきています。
特に近年は、中国のメーカーが生産能力を増強し、世界の粗鋼生産量の半分以上を占めるほどに成長しています。その結果、鉄鋼業界は世界的な過剰生産に陥り、鉄鋼製品の価格競争が激化しました。
中国メーカーの安い鋼材が輸出されるにより、日本の鉄鋼メーカーは一層厳しい状況になってきています。
このような背景から現在、鉄鋼業界は業界再編により、生産拠点を統廃合、稼働率を向上、生産性向上と価格競争力強化を図ることが大変重要とされています。
参照:Worlsteel|October 2021 crude steel production
大手企業同士の合併で国内事業の効率化
鉄鋼業界では上記の対応に合わせ、国内需要の低下に対応するため、大手企業同士の合併・M&Aで再編を進めて事業の効率化を図る動きが加速しています。あわせて中堅・中小企業が、大手企業の傘下に加わる流れもあります。
大手の傘下に加わって経営資源を活用することで、激化する競争環境を生き残ろうとする狙いでしょう。鉄鋼業界は、今後も競争は激しくなるとみられているため、大手傘下入りのM&Aは増えていくと予測されています。
また、鉄鋼業界の中堅・中小企業では、後継者不足が深刻化しています。経営者の高齢化が進んでいるものの、後を継げる人材がいないことで廃業危機に瀕している企業もあるようです。
M&Aで大手へ傘下入りすれば、派遣されてくる役員等に経営を任せることができます。そのため経営者交代による影響も抑えやすくなるので、後継者問題の解決を目的にM&Aを実施する企業も少なくありません。
国内の鉄鋼製造のための原材料が不足
日本の鉄鋼メーカーは、鉄鋼製造の原材料の多くを海外から調達しています。
現状、供給と需要が成り立っていて製造ルートも安定していますが、輸入ルートが遮断されてしまうと、国内の鉄鋼業界は窮地に立たされることが予測されるため、対策が急務とされているのです。
しかし最近、都市で膨大に破棄される家電製品、IT製品に含まれる貴金属やレアメタルも、有用な資源(都市鉱山)としての活用が期待され始めています。
まだ採算性に課題はあるはものの、金属くずなどのリサイクル原料から銅などの金属を取り出せるようになってきているところです。
今後、リサイクル技術が進めば、国内のリサイクル原料から、金属材料や加工材料を手に入れることができるため、安定的に製品をつくることができるようになるかもしれません。
電炉メーカーの再編が急務
鉄鋼製品を製造するメーカーは、高炉メーカーと電炉メーカーに分けられます。建築や土木に使用する材料を製造できる電炉メーカーは高炉メーカーに比べると外需を獲得しやすいです。
世界の鉄鋼メーカーに目を向けると、アメリカでは68%が電炉メーカーに該当します。またその他の海外各国も電炉めを導入し、電炉比率をタ構えることで業界内で躍進しています。しかし日本の電炉比率は2018年段階で25%のみと先進国の中では最も低い比率です。
この状態が続くと、外需を獲得できない日本は世界に置いていかれる形となるため、電炉比率の上昇やメーカーの再編はすぐに対応すべき課題といえるでしょう。
温暖化をはじめとした環境問題
地球温暖化防止への取り組みは、エネルギーを大量に扱う鉄鋼業界では必須条件であり、競争力を高めながらも環境問題をクリアできる技術の開発が求められています。
環境問題への配慮は国内だけではなく、世界的にも重要視されていることであり、環境対策技術は世界でも求められることが多いです。
しかし、鉄鋼の生産には大量のエネルギーが必要となり、業界全体で二酸化炭素の排出は回避が難しいといえるでしょう。
そのため各鉄鋼メーカーではさらなる取り組みが重要な課題になっており、製造過程で発生する二酸化炭素を分離して回収する技術の開発などが進められています。
鉄鋼業界の動向を知ることは選考を突破するために必要です。
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鉄鋼業界の志望動機の書き方
鉄鋼業界の志望動機を書く際は「なぜ鉄鋼業界なのか」「なぜその会社なのか」をしっかりと深堀りしておくことが必要です。
具体的には自分が将来何を成し遂げたいのか、例えば「社会の基盤を支える鉄鋼業界で、規模の大きい仕事に関わりたい」「世界に誇れる技術力を持つ企業で働き、日本だけではなく世界の産業を支えたい」などといった鉄鋼業界ならではの理由を述べるようにしましょう。
“なぜその会社なのか”については、他の企業ではなくその企業でなければいけない理由を伝えます。
例えばJFEグループの鉄鋼事業の分野にあたる”JFEホールディングス株式会社”であれば、エネルギーや資源リサイクルの技術などの幅広い分野にも力を入れていることから、社会貢献に目を向けていることがわかります。
このような企業ごとの特徴や強みを把握した上で、志望企業を決めるようにしましょう。鉄鋼業界の志望動機の例文を見てレベル感を掴みたい方は以下の記事を参考にしてみてください。
鉄鋼業界でうける自己PRの書き方
自己PRの書き方について学ぶ前に、まずは鉄鋼業界の求める人物像を把握しておきましょう。
企業に評価される自己PRをするためには、その業界ではどのような人が求められているのか知っておくことが重要です。
鉄鋼業界の求める人物像
日本の鉄鋼業界は世界的にも高い技術力を誇っていますが、現在は業界内の競争が激化しているため新しい製品や鋼材の研究など、日々挑戦し続けています。そのためチャレンジ精神や柔軟性、忍耐力がある人材が求められています。
また顧客や市場のニーズに合った製品を開発・営業していくため、何が求められているのかを判断できる、つまり傾聴力や常にアンテナ張り、多くの情報をキャッチすることができるという素養も求められていると言えます。
そして海外との繋がりが深い鉄鋼業界は、海外出張や海外勤務を経験する方もいることでしょう。
そのため、社員にも「グローバル」を意識した働き方が求められるようになっており、世界を舞台にチャレンジすることにも臆しない人が必要とされています。英語などの外国語スキルがあるとなお良いでしょう。
鉄鋼業界の求める人物像について学んだら次は自己PRの書き方を学んでいきましょう。
自己PRの基本的な書き方
自己PRを書く際は基本的に「強み⇨エピソード⇨結果・学んだこと⇨入社後どう活躍できるか」の順番で書きます。
(1) 結論
自己PRを書く際は最初に「私は○○することができます」といったように自分の長所を端的に述べます。
最初に結論を述べ面接官に今から何の話をするのか伝えることで、聞き手側も話が入りやすくなります。
そのため、自己PRをする際は結論として、まず長所を伝えるようにしましょう。
(2)エピソード
長所を伝えたら、実際にその長所があることを証明できるエピソードを交えます。
ここではできるだけ具体的なエピソードを伝えるために、その出来事の中で生じた課題・目標や、その課題・目標に対してどのような行動をとったのかについてまで書くようにしましょう。
また企業は、課題・目標やそれ対する行動を通してその人の人柄や価値観を判断しているため、なぜその課題・目標に取り組もうと思ったのか、なぜそのような行動をとったのかについて、しっかりと見つめ直しておいてください。
(3)結果・学んだこと
エピソードの次は、自分がとった行動によってどのような結果になったかについても書きましょう。
結果を書く際は、定量的に表すことを意識してください。
例えば「〇〇というアイディアを出し実践したところ、売上を40%上げることができた」など数字を用いてアピールした方が相手に伝わりやすいです。
また、この経験を通して何を学んだのかについても書きます。
面接官はその人の学びからも価値観や人柄を判断しています。価値観や人柄はその学生を採用するかどうかの大きなポイントとなるため、自分がどういった人なのか、いかにその企業に必要な人材であるのかをアピールするようにしましょう。
(4)入社後どう活躍できるか
企業は採用活動を通して、自社に貢献してくれる人材を求めています。つまり、面接官にこの学生は「自社で活躍する素養がある」と思わせるのが大事です。
そこで自己PRをする際は、最後に今伝えてきた長所をどのように志望企業の業務に活かしていくかまで伝えるようにしてください。
そのためには企業が求める人物像を把握する必要があります。業界研究・企業研究を通してどのような強みをアピールするのか考えておきましょう。
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鉄鋼業界ランキング
ここでは鉄鋼業界のランキングを「業績」と「社内環境」に分けて紹介します。
鉄鋼業界の業績ランキング
▶参照元:業界動向サーチ/鉄鋼業界の売上高ランキング(2020-21年)は上記企業の有価証券報告書に基づき作成しています。ランキングは上記企業のデータの合計または平均を表したものです。また企業名にあるホールディングスを「HD」と省略しています。(※2022年6月日時点)売上については1位が日本製鉄、2位がJFE HD、3位が神戸製鋼所、経常利益は1位が日本製鉄、2位が大和工業、3位が丸一鋼管です。
売上上位3社それぞれ日本製鉄が前期比4.1%減、JFE HDが3.7%減、神戸製鋼が5.1%減と、3社そろって減収を記録しました。原料価格は高止まりの一方で、製品価格が低下するなど、各社きびしい環境に置かれていることがわかります。
売上や利益、利益率をチェックした方が良い理由は、以下の2点です。
・売上は企業の財務力を表しているから
・利益、利益率は企業が行っているビジネスの成否を示しているから
売上は企業の財務力、ビジネスの規模を表しています。つまり売上が高い企業の方が行っているビジネスの規模が大きいということです。
またA社とB社が同じ利益の場合、売上が大きい企業の方が金融機関からの融資を受けやすいとされているため、売上を見ることで企業の資金調達力もチェックすることができます。
次に利益、利益率は企業が行っているビジネスの成否を示しています。そのビジネスによる付加価値がどれくらいあるかを測る指標です。
つまり利益がほとんど出ていなかったり、赤字だとビジネスに何らかの問題があるということになります。
ただし、このランキングだけでなく、成長率も大事であるため各企業の過去についても振り返っていきましょう。
鉄鋼業界の社内環境ランキング
▶参照元:業界動向サーチ/鉄鋼業界の平均年収ランキング(2020-21年)は上記企業の有価証券報告書に基づき作成しています。ランキングは上記企業のデータの合計または平均を表したものです。(※2022年6月時点)年収は1位がJFE HD、2位が大和工業、3位が新報国製鋼、勤続年数は1位がJFE HD、2位が栗本鐵工所、3位が中山製鋼所となります。
勤続年数が長いということは定着率が高いということになります。一概には言えませんが、定着率が高い会社は良い会社である可能性が高いです。
また従業員数が多い会社は多様な人と関わり合うことができるというメリットがあります。しかし多いと自分の意見が通りにくい場合もあるというデメリットもあるため、自分にとってどの環境が合っているのか考えてみましょう。
まとめ
鉄鋼業界は日本経済を支える重要な産業であり、将来性の高い業界です。
しかし今後、日本の鉄鋼業界が国際競争を勝ち抜くためには、高い技術力だけではなく、新しい製品や海外への進出が重要となってくるため、多くの企業が開発や海外戦略を積極的に行うことが予想されます。
そのため現在の業界状況を知り、理解を深めるなどしっかり対策をしてから就職活動に挑むようにしましょう。
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